戦争という具体的なものとイメージ 〜フィクションは現実にある社会の表象を批判する
戦争というものは具体的なもののはずですが、事が事ですので幸い平和な時代に生きている私たちはほとんど知りません。そのためイメージ上位になってもその間違いがどこにあるのか、個々の人々は具体的には指摘出来ませんね。歴史や資料を踏まえた専門家は把握できるかもしれませんが、数から言って相対的にごく僅かです。結果大衆の支持はイメージをうまく演出させた方が握ってしまいます。
大衆自らのイメージ化
しかしこのイメージ化も、なにも決定権を持った政治権力の持ち主たちだけが行うわけでもありません。大衆の方でも同じことをします。その理由も色々あるでしょうが、私は詳しくありませんので書けません。ただ自分たちによくわからない具体性を前にするよりかは、わかりやすいイメージを糊塗したものの方が安心することはあるかもしれませんね。特に戦争などでは不穏さが違います。そこから逃れようとするのもわからないでもありません。
フィクションの創作によるイメージ化の推進
それは政治家や煽動的発言をする人への支持という形をとるばかりではありません。戦争への手続きまでが物語的に進むというのであれば、そもそも本物の物語、創作の場でも同じことが起こってきます。それはどうなるかといえば、政治権力を持つ者たちが演出した物語をなぞるような物語をフィクションとしても作ってしまうのです。太平洋戦争の際には時局にあわせた小説や漫画がたくさんあったそうです。
(ちなみにそうした時局に抵抗した作家について以前書いたことがあります。初めて新着に載せてもらえた、私にとって記念の回です。よければご覧になってください)
戦争への文学的抵抗・日本版 〜関係ないこと書くだけでも抵抗だったのだ。 - 日々是〆〆吟味
イメージ化に対抗する、フィクションの側からのイメージ化 〜『機動戦士ガンダム』の場合
しかしその前にそうした現実のイメージ化を、フィクションの側から批判することも出来ることを見てみましょうか。
以前『機動戦士ガンダム』について書いたことがありました。そこではガンダムは子供向けアニメを乗り越えようとした批評的な作品である、ということと、監督である富野由悠季自身の私小説的な作品でもある、ということを書いたかと思います。
『機動戦士ガンダム』の挑戦、挫折と栄光 〜屈託した人間を描いて - 日々是〆〆吟味
しかしもっと単純に、『機動戦士ガンダム』は戦争アニメであり、反戦アニメでもあります。基本的になんの責任もない子供たちが戦争に巻き込まれて戦わなければならない姿が描かれています。いいぞ、やれやれ、敵倒せ、ってなもんじゃないですよね。それはむしろガンダム以外のロボットアニメで、勧善懲悪を描いた世界です(そして戦争遂行のための物語は、こうした勧善懲悪の敵成敗の物語です)。
この場合『機動戦士ガンダム』という作品は、現実に現れつつあるイメージ化=物語化に対して、自らフィクションという物語を使って対抗していることになります。現実がイメージ化=物語化=フィクション化してしまうのなら、フィクションから現実へと批判を加えるわけです。現実とフィクションの間にはイメージという共通する要素が介在していますから、このイメージによって表されるものをフィクションの側から現実の側へと批判することが可能になるのです。あなたたちのイメージ化しているものはそのようなものではない、というわけですね。
こうした作品の在り方はカウンターカルチャーといって昔は盛んだったようなのですが、豊かになって忘れさられたみたいです。この意味でガンダムは現実の戦争を批判したカウンターカルチャーであり、いけいけどんどんという進軍ラッパのような作品ではありません。そうではなく戦争の悲惨さを描いたアニメということになります。『機動戦士ガンダム』が立派な作品である所以ですね。
新しい戦争時代のガンダム
ところでアメリカがこうしたテロとの戦いをしている時、ガンダムの新作も作られました。では新作のガンダムもまた当時実際に行われていたアフガニスタン戦争、イラク戦争を批判したような内容だったのでしょうか。
それを書こうと思っていたのですが、前置きが長くなり1回分の文量になってしまいましたので、また次回に回したいと思います。
次回の内容
太平洋戦争後の『機動戦士ガンダム』とアフガニスタン・イラク戦争中の『機動戦士ガンダムSEED』 〜戦争を描く際の、主眼となる主人公像 - 日々是〆〆吟味
前回の内容
戦争と物語の困った関係 〜国民は壮大な予告編に抗えなかった? - 日々是〆〆吟味
気になったら触れて欲しい作品
富野由悠季『機動戦士ガンダム』
『機動戦士ガンダム』のDVD。見るなら劇場版ではなくTV版をお勧めします。劇場版はかなり無理して編集しているらしく、本来の魅力が伝わりにくいような気がします。
考えてみますと、戦争の悲惨を描いたシリーズで今日まで続いているのはガンダムシリーズくらいなのかもしれませんね。私はよく知りませんが、戦後多くの反戦作品が作られたと思うのですが、シリーズとして今も残って当時の作品まで一般に知られている作品はそう多くないのかもしれません。たまたま富野由悠季がアニメ監督になり、ガンダムがアニメ作品であったからアニメ全盛の今日まで戦争を表現している作品として残ったのかもしれませんね。
木下恵介『二十四の瞳』
市川崑『ビルマの竪琴』
戦後の反戦映画として私の知っている作品を載せておきたいと思います。どちらも素晴らしい映画だと思います。
大岡昇平『野火』
で、従軍した大岡昇平の小説です。イメージ化されて遂行された戦争の中で生きる姿を、また小説という形でイメージ化させていると言えるかもしれません。
なんか戦争特集みたいな並びになっちゃいましたね。
次回の内容
太平洋戦争後の『機動戦士ガンダム』とアフガニスタン・イラク戦争中の『機動戦士ガンダムSEED』 〜戦争を描く際の、主眼となる主人公像 - 日々是〆〆吟味
前回の内容
戦争と物語の困った関係 〜国民は壮大な予告編に抗えなかった? - 日々是〆〆吟味にほんブログ村
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