日々是〆〆吟味

自分で考えていくための参考となるお話や本の紹介を目指しています。一番悩んだのは10歳過ぎだったので、可能な限りお子さんでもわかるように優しく書いていきたいですね。

『海のトリトン』のピピのかわいらしさと拒絶と小悪魔系な魅力と富野由悠季の体験 〜子ども向けアニメに組み込まれた男女の姿【富野由悠季,手塚治虫】

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『海のトリトン』のピピ

おもちゃ会社がスポンサーとなる子ども向けのロボットアニメ。しかし子どもに見せるものを子供騙しのようなものですませるのは失礼だ。こう考えた富野由悠季は、自分が監督を任された作品で数々の挑戦を始めました。それは『ガンダム』だけではありません。

 

富野由悠季の『海のトリトン』

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富野由悠季の監督デビューは手塚治虫原作の『海のトリトン』でした。しかし漫画とアニメは全くの別物です。タイトルとキャラクター名と少しの設定が一致するくらいで中身は似ているところの方が少ないです。そして面白いのは手塚治虫版ではなく富野由悠季版なのです(主観/以下ちょっとネタバレになるかもしれません)。

 

男女の物語としての『海のトリトン』

どこが面白いのかと言いますと、富野版『トリトン』は男女の物語なのです。主人公のトリトンはトリトン一族の生き残りで、トリトン族を滅ぼしたポセイドン一族と戦ってトリトン族を復興させるように両親の幻影から告げられます。そして仲間のイルカたちと海へ出るのですが、冒険の途中でもう1人トリトン族の生き残りがいることを知ります。それがピピという人魚なのですが、これがもう、とてもわがままです。とにかくトリトンの言うことをききません。

 

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トリトンがトリトン族の復興を掲げてもそんなの知らないと言いますし、旅に出ようとしても行きたくないと言いますし、さらにポセイドン族が攻めてきてピピと共に暮らしていた海の仲間たちが殺されてしまい、居場所を失ったピピは嫌々トリトンについていかざるを得ないのですが、事あるごとにもといた場所に返して、死んだ仲間たちを返して、とトリトンに詰め寄るのでした。

 

トリトン(主人公)を拒絶し続けるピピ(ヒロイン)

とにかく徹底してトリトンの望むことを拒否拒絶し続けるのです。まさに柄谷行人が述べた他者=同じ規則を共有しない者、としての女性の姿が描かれて続けています。ここまで主人公を拒絶し続けるヒロインは『エヴァ』旧劇場版のアスカくらいではないでしょうか。最後の最後までシンジ君を拒絶し、首を絞められても気持ち悪いと言って作品を閉じた名(迷?)ヒロインです。ここ20年くらい興隆を極める美少女とは対極のヒロイン像です。もしかしたら庵野秀明は『海のトリトン』からも影響を受けている可能性もあります(よく知りませんが、もしどこかで言明されていたら申し訳ありません/追記:これは私の書き方が悪かったですね。庵野秀明は『海のトリトン』からではなく富野由悠季の女性像から影響を受けたのかもしれない、と改めさせて下さい)。

 

ピピの事情

ただ、よく見るとわかるのですが、ピピの側からすれば拒絶して当然なのです。なにせ北極で仲間たちと一緒に暮らしていたところを、見知らぬ少年が突然訪ねてきて、自分たちは唯一のトリトン族の生き残りだからポセイドン族と戦ってトリトン族を復興するために一緒に来てくれ、とわけのわからんことを言われ、そのまま敵であるポセイドン族まで連れてきて家族である仲間たちを殺されたあげく、無理矢理トリトンに連れられて、わけもわからずに言うことを聞けと言われているようなものなのです。数年前に中学生を拉致し2年間監禁した事件がありましたが、それと似たようなものです。または大陸奥地であったという結婚相手を無理矢理に攫って夫婦にしてしまう拉致婚みたいなものでしょうか。とにかくピピには意志というものを認められることなく、自分の過ごしていた生活を踏みにじられているのです。それは怒って当然ですし、拒絶するのも当たり前です。

 

ですがそれだけでなく、こうしたピピはとても魅力的な女の子としても描かれているのでした。蠱惑的と言ってもいいくらいの魅力です。ピピのわがままが男を振り回す小悪魔的な要素にもなっていて、表面だけみればとんでもない悪女です。ただその背景は上に述べた通りです。もし庵野秀明が影響をうけたとしたら、よくわかる気がします。この魅力はどこからくるのか、というと、富野由悠季はかつて自分が付き合っていた女性からだ、と述べていました。

 

ともかくこれが子ども向けとして手塚治虫原作のアニメでTVで流されたのでした

 

参考となる本

【手塚治虫『海のトリトン』】 

手塚治虫の手による原作漫画。アニメと全然違います。手塚治虫にしては普通の内容です。ちょっともの寂しい。

追記:そんなにつまらなかったかなぁ、とご指摘いただきました。つまらないとまでは述べていませんが、多分、私は富野版を見てそのイメージを膨らませたままに期待して手塚版を読んでしまったから少し拍子抜けしたのだと思います。もし手塚先生が好きで不愉快に思われたら申し訳ありません。 

で、こちらが富野由悠季によるアニメ版。

この作品には私が気になったピピの魅力だけでなく、少年ものの持つ英雄観を逆転させた重厚なテーマもあります。この点については

【大塚英志,ササキバラゴウ『教養としての〈まんが・アニメ〉』】 

に書いてあります。著者の大塚英志は『ガンダム』の成功よりも『トリトン』の衝撃を高く評価しています。他にも色々な作品が批評されていて面白いですよ。

 

【富野由悠季『だから僕は…』】 

で、こちらが富野由悠季の自伝。たしかガンダムの少し後くらいまでの人生を書かれていたんじゃないかな。多分私は最後まで読んでいないような覚えがありますので、ちょっとあやふやです。

この中で大学時代に付き合っていた女性の話が出ており、かなり奔放で富野由悠季自身が振り回されていたことが書かれています。そして彼女にはかなり影響されていて、自分の描くヒロインにはどこか投影されている気がする、とも述べていたと思います。たしかに富野由悠季の描く女性は小悪魔的に男性を振り回す側面がなきにしもあらず。そんなところに注目して富野作品を見てみてもいかがでしょうか。

 

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 お話その65(No.0065)